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ゴミ屋敷の概況と自治体の認識および法令

ごみ屋敷を取り巻く概況

ゴミ屋敷という言葉が一般的に認知されてだいぶ久しくなりました。
初めは報道をはじめ興味本位の取り上げ方であり、特殊な事例としてみなしていましたが、都市部に限らず地方自治体においても深刻な問題としての認知が広がり環境省においてもその現況の調査を行っています。

平成29年度の「ゴミ屋敷」に関する報告書

平成29年度の「ゴミ屋敷」に関する報告書(環境省)では次のような数字が挙げられています。

 

【調査目的】

ごみなどが屋内や屋外に積まれることにより、悪臭や害虫の発生、崩落や火災等の危険が生じるいわゆる「ごみ屋敷」の問題において、条例を制定する等、各自治体が生活環境の保全や公衆衛生を害する状況に対応しているケースがあるが、その各市区町村における対応事例等の把握を目的として実施したもの。

 

【調査対象】

全国1741市町区村

 

「ごみ屋敷事案を認知しているか?」

認知している・・・・34.2% (594)

認知していない・・・65.8% (1145)

 

なんとアンケート調査を行った自治体の65.8%がごみ屋敷案件を認知していないのです。
このうち認知している自治体については「ごみ屋敷」への対応として以下の対応を行っているようです。

 

  • 原因者への指導・・・・・・33.8%(336)
  • 原因者への包括サポート・・20.4%(221)
  • パトロールの実施・・・・・16.5%(179)
  • 住民・警察との連携・・・・13.8%(150)
  • ごみの撤去・・・・・・・・8.3%(90)
  • その他・・・・・・・・・・7.2%(78)

※複数回答可

 

具体的な対応に関しては自治体によってまちまちのようです。

これは、それぞれの自治体が「ごみ屋敷」に対応することを目的とした条例等を制定しているかどうかにも関連していると思われます。
対応する条例等があれば、決まった動きがおのずとできてくるものですが、規範がないことによって自治体がとる行動は場当たりになりがちであり、住民クレームの解消のみに焦点が置かれるのは想像に難くありません。

 

都道府県別の「ごみ屋敷」における条例等の制定状況

以下のグラフは、その条例等の制定状況を示すものですが、都道府県によって有意な差が見受けられます。


※出典 平成29年度「ごみ屋敷」に関する調査報告書 (環境省)

 

このグラフで示されているように、概ね事案を認知している割合が高いものとなっています。
しかしながら、事案の認知割が高いにも関わらず条例等の制定に動いていない愛知県や広島県などがあるのもまた事実です。また、これらの条例に再発防止などの観点から、具体的な罰則規定を設けているのは制定済み82市町村区のうち17市町村区にとどまり、状況の解消という対症療法的な法律であることがうかがえます。
このため条例等を制定している市町村区が導入後も何らかの課題を抱えているのは明らかでしょう。

 

実際に下記のような項目も課題として挙がっています。

  • 原因者への指導方法
  • 原因者への包括的サポート
  • 住民・警察との連携
  • 適用方法(罰則等)
  • 適用までの時間と経費

 

これらの課題はいずれも自治体内部において手を出しあぐねていることを表しています。それではなぜ自治体は具体的な方策をとれずにいるのでしょうか?次章ではその原因について触れてゆきます。

 

行政が動けない理由

自治体が動けない理由、動かない理由はいくつか考えられますが、ごみ屋敷問題が単なる廃棄物や迷惑行為で片づけることができないという部分が大きく作用していると思われます。
この為、複数にわたる部署が連携する必要があり、従来の縦割り式の組織では非常に対応が難しい。
廃棄物として考えるならば環境課的な部署であり、ケアが必要な問題ととらえるならば福祉課的な部署が対応しなくてはいけない案件になります。

ゴミ屋敷

家庭ごみの委託業者は種類でそれぞれ別?

法の上では家庭から排出されるゴミは、すべからく市町村区にその対応義務があります。ゴミの観点から環境課が処分を実行しようとすると、市町村区の家庭ごみを取り扱う業者に依頼することになりますが、この依頼を拒否されることが往々にしてあるようです。

家庭ごみの回収業者

一般的に家庭ごみは「燃えるごみ」と「燃やせないごみ」の2種類に大別することはできますが、委託業者はそれぞれ別であることが多いのです。また、家庭ごみの定期回収を行う業者はルーティーンで決められた場所から回収を行うのが常であり、屋内からごみを運び出すなどの作業には対応していません。
このため、市町村区によっては作業廃棄物処分業者やいわゆる不用品回収業者へ依頼することもあります。家庭ごみなので法の上では一般廃棄物の許可を持っている業者しか本来は取り扱えないのですが、法の上での但し書き条項によって市町村区が依頼する際にはこれらの許可を持たない業者であっても、適切な処分を行えるのであればという建付けにはなりますが。
この場合、環境課からの依頼という形ではなく福祉課からの依頼の方がケースとしては多いようです。

このような概況の中で、ゴミ屋敷の問題は行政側の認知の低さと制度上の問題を抱えて動きが取れなくなっている現状があります。それではどのようにこの問題に対応してゆくべきなのか?次の章で認知し対応を始めた地方自治体の例を見ながら考えてゆきたいと思います。

大阪市の「ごみ屋敷」対応状況から読み解くごみ屋敷問題

前の章で使用した環境省のデータより古いデータになりますが、大阪市では平成26年に「ごみ屋敷」の現況について調査を行っています。
大阪市では条例により「ごみ屋敷」を2つに分類しています。

条例の対象と対象外

それでは条例の対象とはどのような状態をさすのでしょうか?

  • 条例対象・・・・「条例において不良な状態」

条例第2条 「不良な状態」とは、物品等の体積によりごきぶり、蠅その他の害虫、ねずみ若しくは悪臭が発生すること又は火災発生の恐れがあることを等のため、当該物品等が堆積している場所の周辺の生活環境が著しく損なわれている状態)

  • 対象外・・・・・条例における「不良な状態」ではないが、状況改善に向けた取り組みが必要な状態

 

条例対象 条例対象外 合計
平成25年3月末時点 77
平成26年8月末時点 32 63 95

 

※平成25年3月末数字は条例施行前のものであり、市に寄せられた苦情などをもとに集計(非居住物件:店舗、空き家等も含まれる)

上記のように認識したうえで、原因を次のように分析しています。

 

”「ごみ屋敷」が形成される原因は「自分でごみが捨てられない」45 件、次いで「自分でごみを集めてくる」15 件となっている。
一口に「ごみが捨てられない」といっても、「ごみを物理的に捨てることができない(ごみを玄関先まで持って出ることができない)」、「ごみとして 理することができない(いつか使うからと思ってしている)」、「粗大ごみ等で 理費用がかかるので捨てられない」などのケースが想定されることから、原因別に 策を 討する必要がある。また、「自分でごみを集めてくる」というケースは、いったん解決しても、また同じ 態に ることが想定されるため、再発防止に向けた策も必要となると思われる。”

 

1 自分でごみが捨てられない 45
2 自分でごみを集めてくる 15
3 不明 34
4 外部の人が置いてゆく 4
5 その他 7

 

このうち1の自分でごみを捨てられないも単純に1つの事象とは考えられず、次のように分けて考えて対策が必要であると考えられています。
・ゴミを物理的に捨てることができない(ゴミを玄関先まで持って出ることができない)→身体的理由
・ごみとして理解することができない(いつか使うからと思って保存している)    →心因的な理由
・粗大ごみなどで処分するために費用が必要になるがその費用の捻出ができない    →経済的な理由

2のごみを集めてくるケースにおいては、いったん解消としたとしても、また同様の状態に戻るケースが多く再発防止に向けた対策が不可欠であるとしています。
5の中にはゴミとして認識していないというケースがあります。これは衣類などを中心とした軽度なもの(本人がそのように自覚している)から、認知の歪みにより有用であるか不用であるかの判断がつかなくなるケースといえます。

また、前者は衛生上の問題に関して考慮しているケースが少なくありませんが、後者は認知の問題であるため衛生上の問題を併発しているケースが多くみられます。
具体的には尿や便の処理であり、放置期間が長期化すればするほど本人の健康被害につながる危険性が高まり、また悪臭をはじめとした周囲の環境悪化へつながる恐れが非常に高いものです。

 

さて、これらのゴミ屋敷を形成する人の特徴ですが色々な方向からアクセスしてみましょう。

年齢

原因の項目でも触れていますがやはり高齢者の占める割合が高くなる傾向にあるようです。
先の大阪市の調査では回答数95件の中で59件が60代以上であり62%を占めています。
※70代以上37%、60代25%

住居

大阪市の現況でゴミ屋敷に占める状況としては一戸建てが最も多く47%を占めています。
約半数が戸建てで発生しているわけですが、これは何故でしょうか?
ここには多分に心理的なものが影響していると思われます。また高齢者の戸建て住の場合高い確率で持家と推測されます。
そこで働く心理として高齢者の場合、住宅事情が密集していなかった時代からの考え方を踏襲しているのかもしれません。しかしなが令和の現在に至っては、自分の家で何をどう置いておこうが勝手であるという意識があるのではないでしょうか?
現在の住宅事情では様相が異なり隣家との間に庭を隔ててさらに塀があるというような恵まれた環境は少なくなっています。

このように実情と乖離した意識がゴミの堆積に至る原因となっている可能性は十分考えられます。
集合住宅の場合は、また異なる状況が推測できます。
戸建てに居住している場合は、地域の共同体に属し生活しているパターンが集合住宅より多いと思われます。長くその土地に住み居住している中で独居化しているので比較的周囲の人が気が付くケースが多く、その結びつきの中でごみ屋敷かの前に解消されているものも少なくはないでしょう。
しかしながら、集合住宅においては地域の結びつきというよりは建物内での共同体が形成されるものであり、その中においてもドアの内側の状態は共同体に属する外の人間からは見ることができません。また、いったんそのような状態になってしまうと建物内はいうに及ばず、同フロアの人間とも疎遠になりがちです。その結果発見が遅れ気が付いた時には手の施しようのないごみ部屋に変貌しているというものです。その流れから考えると、ケースとしては1.の自分でものを捨てられないが最も多い事象なのではないでしょうか。

家族の構成人数

ごみ屋敷を形成してしまう世帯の大多数が独居世帯です。一人がゆえに体力的な問題や思考力の衰えなどが生じたときに「ゴミ出し」という行為が困難になりゴミが堆積してしまうという結果につながります。

実際のケースから見えるごみ屋敷のペルソナ

前章で見た大阪市のケースから、ごみ屋敷が形成される理由が、より明瞭になったと思います。
高齢であること、それが故に訪れる認知の衰え、歪み。加えてコミュニティや家族から孤立することによって生じる疎外感からのストレス。
まさに高齢化社会がごみ屋敷問題を加速しているといっても過言ではありません。
このまま、行政が対応を放置することによりごみ屋敷問題の拡大は火を見るより明らかです。
ご高齢者の心のケアと自治体の見守り姿勢こそがごみ屋敷問題の抑制につながるものではないかと思います。

●参照資料
1.環境省 平成29年度 「ごみ屋敷」に関する報告書

http://www.env.go.jp/recycle/report/h30-18.pdf

2.大阪市のいわゆる「ごみ屋敷」の現況について

https://www.city.osaka.lg.jp/kankyo/cmsfiles/contents/0000272/272730/haifu2.pdf

3.各自治体条例

 都道府県  市町村区  条例名
 北海道  長沼市 長沼町環境条例
 妹背牛町  妹背牛町廃棄物の処理及び清掃に関する条例
 ニセコ町  ニセコ町廃棄物の減量及び清掃に関する条例
 伊達市  伊達市環境美化条例
 様似町  様似町廃棄物の減量及び定期性処理等に関する条例
 士部市  士部市空き缶等のポイ捨て及び飼い犬等のふん害の防止に関する条例
 東川町  美しい東川の風景を守り育てる条例
 上士幌町  上士幌町環境基本条例
 陸別町  陸別町まちをきれいにする条例
 青森県  六戸町  六戸町環境美化条例
 五戸町  五戸町環境美化条例
 岩手県  平泉町  平泉町きれいなまちづくり条例(第15条)
 宮城県  登米市  登米市環境美化条例
 秋田県  秋田市  秋田市住宅等の適正な管理による生活環境の保全に関する条例
 大潟村  潟村をきれいにする条例
 東成瀬村  東成瀬村廃棄物の処理及び清掃に関する条例(※ゴミ屋敷限定対応ではない)
 山形県  河北町  河北町快適な住よいまちづくり条例
 福島県  郡山市  郡山市建築物などにおける物品の堆積による不良な状態の適正化に関する条例
 茨城県  筑西市  筑西市きれいなまちづくり条例
 坂東市  坂東市廃棄物の処理及び清掃に関する条例
 かすみがうら市  かすみがうら市環境美化に関する条例
 栃木県  宇都宮市  宇都宮市みんなでごみのないきれいなまちをつくる条例
 栃木市  栃木市をきれいで住みよいまちにするする条例
 さくら市  さくら市環境美化条例
 埼玉県  草加市  草加市家屋及び土地の適正管理に関する条例
 桶川市  桶川市環境美化に関する条例
 八潮市  八潮市まちの景観と空家等の対策の推進に関する条例
 小川町  小川町環境保全条例
 東京都  新宿区  新宿区空き家等の適正管理に関する条例
 品川区  品川区空き家等の適正管理等に関する条例
 大田区  清潔で美しい大田区をつくる条例
 世田谷区  世田谷区住居等の適正な管理による良好な生活環境の保全に関する条例
 中野区  中野区物品の蓄積等による不良な生活環境の解消に関する条例
 杉並区  杉並区生活安全及び環境美化に関する条例ほか
 荒川区  荒川区良好な生活環境の確保に関する条例
 練馬区  練馬区空家等および不良居住建築物等の適正管理に関する条例
 足立区  足立区生活環境の保全に関する条例
 日野市  日野市廃棄物の処理及び再利用の促進に関する条例
 武蔵村山市  武蔵村山市廃棄物の処理及び再利用の促進に関する条例
 神奈川県  横浜市  横浜市建築物等における不良な生活環境の解消及び発生の防止を図るための支援及 び措置に関する条例
 富山県  立山町  立山町環境美化の推進に関する条例
 福井県  坂井市  坂井市廃棄物の処理及び清掃に関する条例
 長野県  駒ヶ根市  駒ヶ根市環境保全条例
 中川村  中川村美しい村づくり条例
 木祖村  源流の里木祖村環境保全条例
 小布施町  廃棄物等による不良状態を解消する条例
 高山村  高山村を清潔で美しい生活環境とする条例
 岐阜県  岐南町  岐南町生活環境の保全に関する条例
 静岡県  三島市  三島市快適な空間を保全するための公共施設における喫煙の防止等に関する条例
 袋井市  袋井市建築物等における物品の堆積による不良な状態の体成果に関する条例
 湖西市  湖西市における廃棄物の減量及び適正処理に関する条例
 愛知県  岡崎市  岡崎市生活環境保全条例
 豊田市  豊田市不良な生活環境を解消するための条例
 小牧市  小牧市廃棄物等の堆積による周辺環境を損なう状態の改善施策の実施に関する要綱(小牧市快適で清潔なまちづくり条例
 稲沢市  稲沢市快適で住みよいまちづくり条例
 京都府  京都市  京都市不良な生活環境を解消するための支援及び措置に関する条例
 井出町  井出町環境保全条例(第5条第3項)
 大阪府  大阪市  大阪市住居における物品等の堆積による不良な状態の適正化に関する条例
 泉大津市  泉大津市環境保全条例
 茨木市  茨木市住居における物品の堆積による不良な状態を解消するための支援連絡会設置要綱
 門真市  門真市美しいまちづくり条例
 兵庫県  神戸市  神戸市住居等における廃棄物その他の堆積によるいい気の不良な生活環境に関する条例
 加東市  加東市良好な環境の保全に関する条例
 猪名川町  猪名川町地域ごみ処理問題検討協議会設置要綱
 奈良県  十津川村  十津川村一般廃棄物の処理及び清掃時間する条例
 岡山県  総社市  総社市廃棄物の減量及び適正処理等に関する条例
 山口県  宇部市  宇部市環境保全条例
 香川県  十庄町  十庄町美しいまちづくり条例
 多度津町  多度津町環境美化条例
 福岡県  田川市  田川市人に優しくうつくしいまち条例
 八女市  八女市環境美化条例
 岡垣町  岡垣町寛容美化に関する条例
 佐賀県  小城市  小城市環境美化条例
 嬉野市  嬉野市廃棄物の処理及び清掃並びに浄化槽に関する条例
 長崎県  長与町  長与町環境美化条例
 熊本県  合志市  合志市美しいまちづくり条例
 南小国町  南小国町環境美化条例
 あさぎり町  あさぎり町廃棄物の処理及び清掃に関する条例 あさぎり町環境美化条例施行規則
 大分県  杵築市  杵築市廃棄物の処理及び清掃に関する条例
 宮崎県  高原町  やか原町環境美化条例
 鹿児島県  曽於市  曽於市不良な生活環境を解消するための支援及び措置に関する要綱

 

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